CEC DA53 と SACD

CD は音が悪い?

SACD って知ってますか? (アナログレコードに較べて)音が悪いと批判され続けた CD に取って代わるべく登場した次世代デジタル・ディスクの規格です。登場したといっても,もう何年も前のことですけどね。同時期に DVD-Audio というのも出ましたが,SACD も DVD-Audio もいまいち離陸しませんね。

CD が音が悪いといわれるのは,CD という規格に課せられた少々厳しい制限のためです。CD の規格が定められる際,人間の耳には聞こえない超高音域や超低音域をバッサリと切り捨てました。無段階に変化するアナログデータをデジタルデータに変換するためにはサンプリングと量子化という過程が必要になりますが,量子化を行うためには周波数帯を制限する必要があります。CD の場合は,記録する周波数帯を「人間の耳が知覚できる範囲ぴったり」に絞ってしまったんですね。

CD の音がレコードに較べて本当にわるいかどうか,僕にはわかりません。それを判断できるほどの耳も資材もないですから。しかし,多くの評論家が「たとえ人間の聴覚には知覚できなくとも 20KHz よりも上の音域が音楽に色づけやリアリティといったものを与えている。CD にはそれが欠落してる。ゆえに音が悪い」と主張しています。これ,エセ科学のような気がしなくもないんですが,結構主流なんですよねぇ...

SACD は CD に与えられた不当な足かせを外すために出てきたような規格です。CD は再生周波数の上限が 20KHz ですが,SACD はそれをおおきく上回る 100KHz 以上の再生を可能にします。そこまでいくと超音波ですね。

さて。
ここから突然話題が変わりますが,専用 DA コンバーターを導入しようと考えてます。





我が家のシステム状況

現在,我が家では大きく分けて二種類の音源を聞いてます。

ひとつは CD。先日書きましたが,DENON DVD-1500 という DVD プレーヤーを CD プレーヤーとして兼用しています。DVD-1500 は当時確か「DVD プレーヤーの中では,音楽 CD の再生をがんばっている」と評価されていました。DVD-1500 からアンプへはアナログRCAケーブルで繋いでいます。

もうひとつは iMac G5。iTunes Store から購入した AAC 形式の圧縮音源や,購入した CD からリッピングした Apple Loss Less 形式の音源が入ってます。iMac からアンプへは,いったん AirMac Express (無線 LAN ルーター)に飛ばして,AirMac Express のアナログ出力から RCA ケーブルで繋いでます。

アンプから見るとアナログ信号がふたつの場所から来ることになります。CD を聞くか,iMac に格納されている音源を聞くか,ソースに合わせてアンプのセレクタを変更しています。

音は DAC が決める?

音楽は最終的にスピーカーから流れてきますが,スピーカーを駆動するのはアナログ信号です。そのアナログ信号を生成しているのが DAC(Digial Analog Converter) - デジタル・アナログ変換機 -です。CD プレーヤーで読み出された PCM データは DAC でアナログ信号に変換されアンプへ送られます。アンプは CD プレーヤーから送られてきた微弱なアナログ信号を増幅してスピーカーへ送ります。スピーカーでは送られてきたアナログ信号(電流)によってコイルが振動し,振動板を動かして空気を振るわせ,最終的に音がでます。これが簡単なオーディオの原理ですね。

DAC は普通は CD プレーヤーなどのデジタル・メディアを再生する機器に搭載されています。小さな部品なので目にしたことのある人は少ないと思います。

我が家の場合,音楽ソースはふたつあります。DVD プレーヤーと iMac。それぞれの機器でアナログ信号を生成しています。厳密にいうと,DVD プレーヤーの DAC と, AirMac Express の DAC ですね。iMac から AirMac Express までは,音楽信号はデジタルのまま飛んでいきます。そのほうがエラー補正などに都合がいいですからね。

一般にオーディオシステムの「音の変化」 - つまり高額な商品を買うと良い音がする - に対してもっとも影響を持っているのはスピーカーだといわれますが,DAC も非常に大事なパーツです。CD などのデジタル・メディアを再生した場合,どのような機器であれ -つまり安い機器でも高額な機器でも - デジタル信号として扱う分には差はありません。差が出るのはアナログ信号に変換してからです※1。アナログ信号に変換するとその後の伝送路で必ず減衰しますし,ノイズが乗りますし,乱れます。したがって,いかに DAC で「良いアナログ信号を生成するか」が再生される音に大きな影響を与えると信じられています。

また,原理上は CD に格納されているデジタル信号(Linear PCM)をアナログ信号に変換する数式は一つのはずですが,実際にはアナログ信号の生成時にさまざまなテクニックが使用されるので,DAC の機種毎に生成されるアナログ信号が異なります。いかに電気的ノイズや振動や熱などの外的要因から生成されたアナログ信号を守るか,そしていかに「高音質な」アナログ信号を PCM から生成するか。それが DAC の「腕の見せ所」なんですね。

ふたつの DAC の音質差

さて,我が家の環境に話は戻ります。

DVD-1500 と AirMac Express の DAC には,はっきりとした聴感上の差が感じられます。DVD-1500 はまぁマルチプレーヤーとしてはソレナリにがんばっている感じ。AirMac Express は音の分離が悪く,中高域が薄いです。音量をあげると低音域はぼやぼやします。無線 LAN の機器におまけでついている機能なので,DVD-1500 の 20bit DAC に較べるほうがどうかしているんですが。

ところが困ったことに,日常の使い勝手という面では DVD-1500 よりも iMac がはるかに上なんですね。他のことをしながら音楽を聞き流していることが多いので,CD 一枚の再生が終わったからといって CD を換えにいくのが面倒なんですね。iMac なら,プレイリストを好きなようにつくれるし,気が向いたらシャッフルに設定しておけばそれこそジュークボックスです。

で,iMac からの再生をどうにかしたい,というのが今回のお題です。

え? 前講釈が長いよって? すみません...

専用 DA コンバーター

先ほど,デジタルデータとして扱うならどのような機器でも同じ,と書きました。アナログ信号を生成する DAC が再生される音に対して大きな影響を持っているらしいことも書きました。

で,てっとりばやく iMac から再生される音の品位を上げるには, AirMac Express の DAC に仕事をさせなければいいのです。そこで, DA コンバーターの登場です。

DA コンバーターというのはずばり, DAC そのものです。DAC は CD プレーヤーや AirMac Express のように,デジタル信号をアナログ信号に変換して出力する機器に内蔵されていることが多いですが,このような機器には品質の悪い DAC が使われることも多く,オーディオ・システム用に「専用 DA コンバーター」が販売されています。

DA コンバーターをどのように使うかというと,我が家の場合では,DVD-1500 と DA コンバーターを光デジタル・ケーブルで接続します。また,iMac と DA コンバーターを USB ポートで繋ぎます。

これで終わり。

DVD-1500 と iMac から,音楽データがデジタルの PCM 形式のまま DA コンバーターへ伝送され,DA コンバーターに内蔵されている高品位な DAC が立派なアナログデータを生成してくれる,というわけです。信号がデジタルであるうちは,その信号を扱う機器の性能はそれほど問題になってこない(これは厳密には嘘ですが)のですから,DVD-1500 と iMac の音質差はなくなるはずです。

SACD の再生で問題

いいことずくめの専用コンバーターですが,問題がないわけではありません。冒頭に述べた,SACDの存在です。

CD のデジタルデータの形式は PCM です。PCM の方法論そのものではなく,無段階に変化するアナログデータをデジタル化する際に CD が課せられてしまった制限 - 秒間 4万回しかないサンプリング回数と狭すぎる再生周波数 20Hz - 20KHz - に対する不満から SACD が生まれたわけですが,その SACD の形式は DSD (Direct Stream Digital)です。見た目はおなじ 12cm の光ディスクでも,記録されているデータ形式はまったく異なります。

我が家で導入を考えている DA コンバーターは CEC 社の DA53 という機種です。DA53 を導入するのはいいのですが, SACD に対応しているのかどうかが気になります。残念ながら,CEC のウェブサイトにもその他のどこにも, DA53 が SACD のデジタル出力に対応しているのかという単純な疑問への回答はみつかりませんでした。

ところで,DA53 に使われている DAC は,バーブラウン社(Burr-Brown)製の PCM1796 です。PCM1796でウェブを漁ると,実は PCM1796 それ自体は SACD の記録形式である DSD のインタフェースをもっていることがわかります。

早速 CEC にメールを書きました。内容はずばり,「PCM1796 には DSD インタフェースがあるが,DA53 として SACD に対応しているのか」です。

メールを送って一時間もしないうちに返信がありました。要約すると,「いろいろ試したが再生できなかった。DA53 は SACD には対応しない」というものでありました※2

残念。

とはいえ,SACD もいつ本格化するかわかりません。聞きたいタイトルが SACD で出ないのならば再生機を持っていても宝の持ち腐れです。世の中の大勢が CD ですし,僕には CD と SACD の違いを聞き分けられる耳もないのだから,CD を楽しく聞けるように DA53 の購入を決意したのでした。

ま。SACD プレーヤーを買うことになっても,DA53 を通さずにアンプに繋げばすむだけの話ですし。

... あとは先立つものが...




※1:
PCM データのみを扱う機器,いわゆる CD トランスポートを換えても音は変わるといわれています。パソコンからの再生の場合は,CDを再生するドライブを換えるだけで音が変わるといわれています。純粋にデジタルなデータを扱っているのに,機器が変わると音が変わるなんて不思議ですよね。どこでも同じように再現できるのがデジタルデータの特徴なんですけどね...



※2:
回答の内容は残念なものでしたが,いただいたメールは非常に好感の持てるものでした。このメーカーとならつきあってもいいかな,と思わせるようなメールでしたね。


by melekai | 2007-06-12 22:45 | 音楽・オーディオ・機器