あなたの人生の物語

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

テッド チャン / 早川書房


短編集です。

別の「SF傑作選」に収録されていた「バビロンの塔」を読んだときに,あんまりピンとこなかったんですね。テッド・チャン。「バビロンの塔」はこの短編集にも収録されています。発表している作品は多くはありません。ただ,寡作ながらも発表する作品(すべて短編)が軒並み賞を取るほどのクオリティという,少々珍しい作家さんですね。

感想は,『なんでもっと早く読まなかったんだろう』。

僕は大学では自然言語を専攻してましたが,あの頃にこの物語を読んでいたらさぞかしはまっただろうなぁ,と思います。新たに習得した言語によって新たな認識を獲得していく,というのが物語のテーマです。

未来の物語と現在の物語が並行して語られていくのですが,未来の物語は時間軸が未来から過去へと推移します。現在の物語は過去から未来へと推移します。そして,物語の最後で,みごとにふたつの物語がひとつになるんですね。

最後の一行がうまい作家というのはなかなかいないんですが,「あなたの人生の物語」は,最後が本当にいいです。印象的で,美しいです。

テッド・チャンが書くものはジャンルとしてはサイエンス・フィクションですが,いわゆるスペースオペラものとは無縁で,宇宙船でどんぱちはありません。宇宙人が出てきても,語られるのはもっぱら人の認識や思考とは何か,ですね。サイエンス・フィクションの舞台装置を利用して,通常ではあり得ない状況を現出させ,その中で人間そのものを語る,そんな作風が多いです。

勧善懲悪なスペースオペラではないので難しい部分もありますが,大人が愉しむサイエンス・フィクションとしてはおすすめ。

by melekai | 2009-01-28 05:36 | ライフログ